五色沼自然探勝路のあるきかた

「裏磐梯の名所といえば」とアンケートをとれば間違いなく一番になるでしょう「五色沼」。
今日も全国各地から多くの方が五色沼を見るため、裏磐梯を訪れています。
裏磐梯ビジターセンター(裏磐梯物産館の臨時出張窓口も)も五色沼のそばにありますので、
ビジターセンターを訪れる方からは関連する質問を多くいただきます。
HPでも紹介はしていますが、→→リンク 今回は「五色沼」の歩き方や見どころ、
注意点などなどを大容量で、より詳しくお送りしたいと思います。

目次

五色沼とは?
「五色沼」は正確には「五色沼湖沼群(ごしきぬま こしょうぐん)」といいます。勘違いされがちですが「五色沼」という名称の沼はここには存在しません
一帯に点在している20~30個の沼たちを総称して五色沼湖沼群と呼んでいます。名前の由来は様々な説がありますが、
「様々な色の湖沼が、それぞれ季節や天候、見る角度などの変化でさらに多様な色を示すため」という由来がポピュラーの様です。

ややこしいことに「五色沼湖沼群」から17kmほど離れたところにも「五色沼」が存在します。
こちらは磐梯吾妻スカイラインの道中にある浄土平から、一切経山という山を登ったところ(往復4時間の登山です)で見られる沼で、別名を「魔女の瞳」といいます。
魔女の瞳も美しい青色をしており、特に沼に日が差した時の鮮やかな青は、訪れる人を虜にします。

一切経山から望む「五色沼(魔女の瞳)」(撮影:2021/5/11)

五色沼の歩き方
五色沼湖沼群をめぐるには「五色沼自然探勝路(ごしきぬま しぜん たんしょうろ)」を歩きます。地図はこちら
探勝路は東西にのびる1本道で標高差はほとんどなく分岐も少ないため歩きやすい道です。
道は土でできた道で、時折土の中から岩がせり出しているところがあります。湿った岩は滑りやすいので注意が必要です。
分岐は毘沙門沼付近にいくつかと、「遠藤現夢の碑」に向かう道と本線との分岐があります。分岐にはそれぞれ小さな看板が立っているため、見逃さないように。


裏磐梯ビジターセンターわきの東側出入り口
坂を登って行きます。
最寄りのバス停は「五色沼入口」赤い屋根の建物が目印です。


裏磐梯物産館わきの西側出入り口
階段を下ってまっすぐ進みます。
最寄りのバス停は「裏磐梯高原駅」物産館の駐車場から道路を挟んで反対側の木造の建物から、
「五色沼入口」バス停に向かうバスに乗ることができます。

五色沼入口~裏磐梯高原駅のバス運賃は¥250/大人1人(2024年8月現在)
あらかじめ時刻をご確認の上、西側・東側どちらの駐車場を利用するか、
歩く前にバスに乗るか歩いてからバスで元の駐車場まで戻るかを決めておくのがおすすめです。
バス時刻はこちら→会津バス時刻表(猪苗代管内の【猪苗代駅⇔裏磐梯高原駅】のページおよび喜多方・裏磐梯管内の【喜多方駅前 ⇒ 大塩 ⇒ 裏磐梯】のページが対象です)

もちろん途中で引き返したり、往復歩いてみたりも可能です。
国道沿いを歩けば探勝路を歩くより早く戻れるでしょう。

歩く際の注意

道中は自動販売機もトイレもありませんので、歩き始める際は入念な準備をしましょう。詳しくはこちら

自然の中を歩きますので、注意点も多くあります。
滑りやすい湿った岩やぬかるみ(雨の後や雪解けのシーズン)、ハチ、ウルシなど危険な動植物、急な天候の変化、落枝・倒木など


乾いているときの道の様子(撮影:2023/5/11)
スニーカーでも歩ききることは可能ですが、地面から石がせり出しているところもありますので、トレッキングシューズなどの硬い靴で歩かれることをお勧めします。


雨の日・雪解けのシーズンの道の様子(撮影:2023/6/14)
探勝路のあちこちにぬかるみが残っています。また、岩や木道の上は滑りやすいので注意しましょう。

雪が積もる冬期は植物を踏みつけて傷つける心配がないため、スノーシューを履いて様々な場所を歩くことができます。
しかしながら、普段は人が歩かないところを歩くため、危険なことも多くあります。
→上記の注意点の他ホワイトアウト、落水、雪庇、木からの落雪、雪に埋まった木の跳ね返りなど
慣れていない方はガイドを頼むのもよいかもしれません。


スノーシュー
裏磐梯ビジターセンターでレンタルも行っています。詳しくはこちら


積雪期の道の様子(撮影:2022/1/5)

また、五色沼自然探勝路は磐梯朝日国立公園の特別保護地区の範囲の中にあるため、
動植物を傷つける行為や、土石の採取、自転車等の乗り入れなどが法律で規制されています。詳しくはこちら
もちろん規制されていない行為であっても、他の人の迷惑となる行為や、自然に影響を与えてしまう行為はしないようにしましょう。

五色沼の成り立ち
さて、突然ですがここでクイズです。五色沼湖沼群ができたのは、今からだいたい何年前でしょう?

①だいたい130年前(明治時代)
②だいたい1300年前(奈良時代)
③だいたい13000年前(縄文時代)
④だいたい130000年前(旧石器時代)


ヒント:桧原湖の北岸にある大山祗神社の鳥居(撮影:2016/4/6)
春ごろに桧原湖の水位が下がると顔を出します。桧原湖と五色沼は大体同じ時期にできました。ということは?

正解は①です。1888年(137年前)に起きた磐梯山の噴火が起因となり、桧原湖や五色沼湖沼群を含む裏磐梯の湖沼ができました。

磐梯山の噴火
現在、大磐梯と櫛ヶ峰という二つの頂が目立つ磐梯山ですが、明治の噴火前には小磐梯という頂が磐梯山の北側にそびえていました。
この小磐梯が水蒸気噴火※の衝撃により崩れ、岩屑なだれとなってふもとの集落や川を埋め立ててしまったのです。
堆積した土砂は最大100m以上の厚さといわれ、死者477名という大災害となりました。
※マグマにより温められた地下水が水蒸気となり、その圧力で爆発を起こすタイプの噴火。マグマが地表に出てこない。


現在の磐梯山(裏磐梯)と山体崩壊前の小磐梯のイメージ

噴火により裏磐梯高原をつくりだした磐梯山ですが、まだまだ生きている活火山で、将来的にまた噴火する可能性があります。
登山の際は最新の火山情報の確認をお忘れなく!!(気象庁リンク


磐梯山 銅沼付近の噴気(撮影:2023/1/30 PVさん撮影)

植林事業を行った遠藤現夢翁
磐梯山の噴火により荒れ地となった裏磐梯を明治政府は何とかして復興させようとしました。その時活躍したのが遠藤現夢翁(本名 遠藤十次郎)です。
遠藤現夢翁は私財を投じて植林を行いましたが、初めはうまく根付かず難航しました。そこで林学者の中村弥六先生に相談したところ、荒地などに真っ先に生えてくる植物(パイオニア植物)であるアカマツなどを植林すると良いとされ、アカマツを中心に10万本以上の植林をした結果、しっかりと根付き、植林事業を成功させました。


遠藤現夢翁の碑(撮影:2017/5/6)
柳沼と靑沼のあいだにこの碑に続く分岐があり、350mほど入ると遠藤現夢翁の墓を見ることができます。
遠藤現夢が生前、植林作業中に見つけた巨石を自らの墓とし、刻印しました。

五色沼の水の秘密
五色沼湖沼群は沼ごとに多様な色を示しますが、そのなかでも青沼・るり沼・弁天沼の青色はとても美しく、人気です。
いったいどうしてこんなにも青いのでしょうか?
秘密は沼の周りの植物についている白い粉です。粉は沼の水に含まれるケイ酸アルミニウムの細かな粒子。
この粒子が可視光の中の波長の短い青い光を散乱させることで、人の目には青い光が強く見えるのです。(レイリー散乱)
少し難しいですが、空が青く見えるのと同じ原理です。

青沼(撮影:2022/9/28)
増水した際に水に浸かった葉に、ケイ酸アルミニウムの白い粉が付着しています。

五色沼の生き物
前述のとおり、五色沼周辺はたった137年前にできた新しい土地です。植林事業はありましたが、荒地から再生途中の土地である事には変わりません。
植物は種類によって生育できる環境が異なります。例えばアカマツは荒地などの土壌が発達していない土地でも生育することができますが、暗い林内では生育できません(陽樹といいます)。
逆にブナなどの植物が生育するにはある程度土壌が発達している必要がありますが、暗い林内でも大きくなることができます(陰樹といいます)。

五色沼湖沼群周辺は噴火の影響により、土壌の薄い荒地となったことで、アカマツやヤナギ、ヤシャブシなどが多い陽樹林となっていますが、今後は暗い林内でも生育できる陰樹に少しずつ置き換わり、陰樹林へ変化していくと思われます。
このような、植物の種類の変化を植生遷移(しょくせいせんい)といいます。
また、植物の種類が変化していくことで、それを食べる動物の種類も変化していきます。たとえば蝶の仲間などは、幼虫の時に食べる植物が種類ごとにおおよそ定まっているので顕著に変化します。

日本の森林の多くは植生遷移の完了した陰樹林ですが、裏磐梯では遷移途中の自然を楽しむことができます。
また、岩屑なだれでせき止められた川が作った湖沼の多さも裏磐梯の特徴です。
これらの裏磐梯の自然の特徴を表す、五色沼湖沼群に生息する生き物たちを一部紹介いたします。

植物


アカマツ(マツ科)(2016/4/2撮影)
植林の際、同じ個所に数本まとめて植えられたため、根元がつながって成長しています。



シロヤナギとその種(ヤナギ科)(2012/6/4撮影)・(2022/6/4撮影)
初夏には綿毛のついた種が飛び回り、生育に適した場所を目指します。屋内はお掃除が大変です。


ヤシャブシ(カバノキ科)(2023/12/1撮影)
冬は雪を黄色く染めるため、簡単に見つけることができます。


ヒロハツリバナ(ニシキギ科)(撮影:2021/9/16)


ウカミカマゴケのマット(撮影:2024/8/10)

動物


モリアオガエル(アオガエル科)(撮影:2021/7/4)


コムラサキ(タテハチョウ科)(撮影:2021/7/8)
幼虫の時はヤナギの葉を食べます。


アマゴイルリトンボ(モノサシトンボ科)(撮影:2022/7/6)

五色沼の沼たち
五色沼自然探勝路から望める沼を東から順に紹介いたします。

小沼[おぬま]
ビジターセンター本館すぐ近くの園地にあります。


毘沙門沼[びしゃもんぬま](撮影:2024/4/4)
五色沼湖沼群で最も大きな沼。エメラルドグリーンといわれることの多い沼です。
木道からは沼越しに磐梯山を望むことができます。


名称不明(毘沙門沼~赤沼間にある沼)(撮影:2021/5/7)
雪解けのシーズンなどに現れる沼です。水は透明で、サンショウウオやカエルのオタマジャクシを見ることができるかも

鮒沼(毘沙門沼~赤沼間にある沼)
資料に名前が残っていましたが、場所が分かりませんでした。道の北側にあるようです。



赤沼[あかぬま](撮影:2021/3/5)・(撮影:2023/6/12)
冬は緑、夏は青と季節によって色が変わります。酸化鉄により沼の周りが赤く縁取られています。


深泥沼[みどろぬま](撮影:2021/5/7)
奥から青、赤、緑と三色に見える変わった沼です。


名称不明(みどろ沼~竜沼間にある沼)(撮影:2024/8/17)
岸辺は赤褐色。水深は浅いですが、たまに魚が泳いでいます。


苔沼[こけぬま](竜沼の向かいにある沼)(撮影:2021/5/7)
近年、面積が小さくなっていっている沼です。



竜沼[たつぬま](撮影:2023/6/3)・(撮影:2022/3/25)
探勝路から少し離れているため、夏は茂った葉で隠れ、見えにくい沼です。
冬はスノーシューで近くまで行くこともできます。(沼に落ちないように気を付けてください)


弁天沼[べんてんぬま](撮影:2024/4/28)
ターコイズブルーやコバルトブルーといわれる沼です。天気の良い日は南国の海のような青になります。


瑠璃沼[るりぬま](撮影:2024/4/28)
天気が良ければ沼越しに磐梯山が望めます。色味の変化が激しく、鮮やかな青はなかなか見られません。


青沼[あおぬま](撮影:2024/4/28)
西側出入り口から約10分で見られます。少し乳白色に濁ったような青です。


石倉沼[いしくらぬま](撮影:2024/8/10)
遠藤現夢の碑に向かう道の付近にあります。探勝路から離れたところにありますので、スルーされがちです。


柳沼[やなぎぬま](撮影:2023/11/3)
西側から探勝路を歩き始めたとき、真っ先に見える沼です。紅葉の時期は水面に反射する赤色がとても鮮やか。


父沼[ちちぬま](撮影:2028/5/7)
柳沼の向かいにある沼です。底が透けて見えるほどきれいな水です。
地図によっては母沼と名前が入れ替わってしまっています。


母沼[ははぬま](撮影:2024/8/14)
裏磐梯物産館の駐車場わきにある沼です。

弥六沼[やろくぬま]
裏磐梯高原ホテルの敷地内にある沼です。詳しくは→裏磐梯高原ホテルHP

五色沼湖沼群の源流の沼
るり沼の上流にあたるとされている沼たちです。

もうせん沼
裏磐梯スキー場へ向かう道の途中にあります。


銅沼[あかぬま](撮影:2017/9/21)
磐梯山の中腹にある沼です。見に行くには片道1時間ほどの登山となります。詳しくは→磐梯山ジオパークHP

五色沼湖沼群はその色彩も魅力的ですが、成り立ちの歴史や現在の自然環境など、ほかにも様々な魅力を抱えています。
東京駅から3時間ほどで、国立公園の特別保護地区に指定されるほどの自然を楽しむことのできるアクセスの良さも魅力の一つでしょう。
見られる景色や体験できる自然も四季折々です。ぜひとも一度訪れてみてはいかがでしょうか?
磐梯朝日国立公園の魅力はほかにも!→ 環境省_磐梯朝日国立公園

参考文献

阿部武.裏磐梯五色沼の名称と水の色.会津生物同好会誌.2013,No.51,p.29-36.
吉村信吉ほか.磐梯五色沼の湖沼學的豫察研究 (上).地理学評論.1936,第12巻第2号,p.152-152

◇自然解説員 なかじま◇